Mysterious Lover
落ち着いて。ほら、深呼吸、深呼吸……
しっかりして。自分で、なんとかしなくちゃ。
昨日みたいに、拓巳が助けてくれるわけじゃないんだから。
じわりとにじむ汗をぬぐって、わたしはスマホを拾った。
「……はい」
コポコポコポコポ………
ピチョン……ピチョン……
もう耳馴染んでしまった、その音に交じって、あの甲高い声が聞こえた。
『昨日ハ、大変ダッタネ。ケガ、シナカッタ?』
からかうような、おもしろがるような、笑い混じりの声。
震える足をぐっと地面に固定して。
フツフツ……って、湧き上がってくる怒りにまかせて口を開いた。
「あなたねえっ」
声が揺れないように、お腹に精一杯の力を込める。
「いい加減にしなさいよっ! 一体何が目的なのよっ!」
『言ッタダロ。君ハ、僕ノモノ。他ノ、誰ニモ、渡サナイ』
「だったら、こんな回りくどいことしてないで、ちゃんと出てきて名乗りなさいよっ!!」
くくくくって、くぐもった笑いが聞こえる。
『怒ッタ君モ、素敵ダネ。カワイイヨ』