Mysterious Lover

「え……と」

『何かあったんだろっ! すぐ行くからっ! 言えよ、どこ!?』
涙が……こぼれ落ちた。


◇◇◇◇
カンカンカン……外階段を駆け上がってくる音がする。
「奈央さん! 奈央さん!」
ドアを激しくたたく音に、よろめきながら立ち上がって。

力が入らない足を必死で伸ばして、玄関にたどりつく。
ドアスコープから拓巳の姿を確認して、わたしは鍵を開けた。

「たく」

言い終わる前に、もう、わたしは拓巳の腕の中にいた。
苦しくなるくらいギュウっと力を込めて抱きしめられて、ガチガチにこわばっていた心が、ゆるゆるとほどけていく。

「奈央さん……もう、大丈夫だから」
暖かな腕……暖かな声……涙が止まらなかった。

「たくみ……」

人の腕の中って……こんなにあったかかったっけ……。

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