Mysterious Lover
「よっ! はよ」
ドンって背中を叩かれてつんのめり、思わずデスクに手をついた。
後ろを見ると、同じく編集チームの田所亮介(たどころ りょうすけ)がニッて笑って立っていた。
「ったいなあ……もお」
「新人の話、聞いたか? 今日だってな」
「うん。芸能人も顔負けって噂らしいね。田所、イケメンポジション奪われちゃうかもよ?」
「まさか。オレの美貌は、そんじょそこらのペーペーじゃ揺るがせませんよ」
「ビボーって何それ。自分で言う?」
わたしも翠も、お腹かかえて笑っちゃった。
「なんだよぉそんなに笑うことねえじゃん」
さすが我が制作部のムードメーカー。
朝からたくさん笑って、わたしはなんとなく、昨夜から続くブルーな気分から抜け出せたような気がした。
「ま、とにかく。使える奴が来てくれるといいよな」
田所の言葉に、熱烈にうなずく。うん。それは必須だ。
「それは間違いないって。面接したの、部長でしょ?」
わたしと田所、すぐに「あぁそっか」って視線を交わした。
制作部のメンバーは、ほとんど工藤さんが見つけて、引き抜いてきた社員で構成されてる。かくいうわたしも、小さな編集プロダクションで働いてた2年前、工藤さんに声をかけてもらったし。
今のチームワークの良さを考えれば、彼の人を見る目の確かさがわかるってものよね。
そうだ、昨夜の件、工藤さんに後で相談してみようかな……。
なんて考えていた時だった。
ザワッて、社内の空気が動いた。