Mysterious Lover
興奮していた頭が、徐々に冷静さを取り戻していく。
体中に、酸素がめぐるように、ゆっくりと。
「ごめん。みっともなくパニクっちゃって」
「オレはうれしかったけど?」
「え?」
「おかげで、こうして堂々と、奈央さんに触れられる」
そう言って、ギュッとわたしを抱く腕に力を込めた。
その腕は力強くて、心地よくて……酔ってしまいそう。
「拓巳……」
「奈央さん、オレさ。自分のことどうでもいいって思うくらい、あなたのこと、好きになっちゃったみたいだ」
とくん……とくん……
拓巳の鼓動が、伝わってくる。
その腕の、胸の、暖かさに、わたしの体、同化していくみたい。
「好き好きっていうけど……」
気持ちが少し緩み過ぎていたのかも。
気が付くと、ぽつんてわたしの口から、言葉が飛び出していた。
「でも、何もしないのね」