Mysterious Lover
でも拓巳は首を振る。
「この顔じゃもう今日は働けないし。このまま帰るよ」
「じゃ、拓巳の家で手当する?」
「いいって。オレんち救急箱なんて置いてないし」
返されて、思わず「うち来る?」なんて、口にしていた。
「それ……誘ってるの?」
からかうように、拓巳がわたしを見上げる。
「ばばばばかっ! 違うわよ! だいたいこんなボロボロの奴に言われても、全然その気にならないから!」
わたしが言うと、拓巳は「それもそっか」って苦笑した。
「タクシー呼んでくるから」
そう言って。
その場を離れてから、熱を帯びた頬を両手で押さえた。
そうよ。
その気になんて……ならないんだから。