Mysterious Lover
「奈央さんちの味噌汁って、赤だしなんだね。どこのメーカーか教えて? すっげぇうまかったから、今度オレも使ってみたい」
「なっ……」
おおおおっミソシルッキターーーッ!
制作部にどよめきが起こって。
「なんだよなんだよ、結局うまくいってんじゃんよ。おめでとさん」
あちこちから冷やかしの声があがって、わたしは焦りまくる。
「いや、だから、何もないってば! ほんとに!」
「別にいいじゃないの。みんな奈央の幸せを喜んでるんだから」
あのねえ翠、って言いかけて。
バンッ——
鋭い音が響いて、みんなギョッと一斉に口をつぐむ。
顔をあげると、工藤さんがデスクにファイルを落としたところだった。
「いい加減手を動かせ。ウェブ、15分後にミーティングやるぞ。準備しとけ」
工藤さんはファイルをつかむと、サッと歩き出した。