Mysterious Lover
「お話ししたいことが、あるんです」

工藤さんは、わたしから視線をはずしたまま、取り出し口から紙コップを取った。
「……悪い、午後イチで大手町まで打ち合わせに行かなきゃいけないから、時間ないんだ」

「そう……ですか、じゃあ夜は?」

「難しいかな。出版社のパーティーに呼ばれてる」

「あ……そうなんですね」

「悪い。また今度な」

ぽん、と肩を叩かれて、そのまま工藤さんは立ち去って。
その後ろ姿を、わたしは無言で見つめるしかなかった。

別れ話を切り出すのって、かなり難易度高いかも……。

ううん。
それでも、話さなくちゃ。

漂う憂鬱を払うように、頭を振った。

「奈央さん」

間近で声がして、視線を巡らせると、拓巳が自販機にもたれてわたしを見ていた。

「何話してたの? 部長と」
じっと、まっすぐに、見つめてくる。
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