Mysterious Lover
やっぱり資料だけ、下高井戸まで取りに戻ろう。それから翠のアパートで、書かせてもらえばいい。
わたしは荷物をまとめると、立ち上がった。
「お先、失礼します」
残っていた数名に声をかけると。
「えぇいいなぁ、もうあがり?」
更新作業が手間取っているらしいウェブチームの松園さんが、唇をとがらせる。
「いえ、それが資料を家に忘れてきてしまって。家で書こうかと」
「ふうん、そっかぁ。おつかれ」
「お疲れ様です」
◇◇◇◇
会社を出ると、澄んだ空気の中、否応なく冷気が体にまとわりつく。
それを避けるように、マフラーをきつめに巻いた。
新宿の街並みには、年末らしい煌びやかなイルミネーションがきらめき、道行く人の目を奪う。
クリスマスまであと1か月、街はますます華やかな盛り上がりを見せていた。
クリスマス……拓巳はやっぱりバイト忙しいのかな。
お客さんと、出かけたりするのかな。
わたしは頭を振って、余計な思考を払い、新宿駅に向かって歩き始めた。