Mysterious Lover
「どうしたの?」
再び差し出されたその手を……取ることができなかった。
とっさに払いのけ、踵を返して走り出す。
「奈央さん!?」
やだ……やだ! もういやだ!
何も考えたくない!!
頭の中がぐちゃぐちゃだ……。
わたしは拓巳から逃れ、奥へ奥へと駆けた。
「奈央さん! 待って! なんか誤解してる!」
真っ暗な工事現場は、内部がどうなっているのかまったくわからなくて、
木材だの、重機だの、闇の中ではっきりと認識できない未知のものたちが行く手を阻む。
足を取られて躓きそうになりながら、わたしはただただ、駆ける。
——好きだよ、奈央さん。
——奈央さん、オレさ。自分のことどうでもいいって思うくらい、あなたのこと、好きになっちゃったみたいだ。
ねえ、わたしは、何を信じればいいの?
誰か、誰か教えて!