Mysterious Lover
23. 激情の会議室
「おおいっ亀井! お前どうしたんだよそれっ!!」
月曜日、休み気分をひきずるように静かだった社内が、その瞬間一気にざわめいた。
額を包帯で巻いた拓巳が出社したから。
隠れて見えないけど、たぶんシャツの下も、ぐるぐる巻きに違いない。
「ちょっと階段で転んじゃって。いや、マジどんくさいですよね。かっこ悪すぎ」
拓巳は朗らかに笑い、少し肩をすくめてみせた。
フロアを横切る軽やかな足取りに乱れはなくて、ちょっとホッとしたけれど。
実はかなり動転していた。
正直、まさかこんなに早く彼が退院すると思わなかったから。
もう少し、冷静になる時間がほしかったんだけど……。
「ちょっとちょっと、どうしたのよ彼氏。なんか知ってる?」
翠の声にも、「さあ」って返すのが精いっぱい。
コツ……
隣のデスクに、拓巳が立つ気配がする。
「おはようございます。奈央さん」
手をきつくマウスに押し付けて、動揺をやりすごす。
「おはよう。ケガの具合は?」
大丈夫。普通に話せてる。この調子。