Mysterious Lover

拓巳は「え?」って疲れたような顔を上げて、田所のパソコンに目をやって。

それから……。

ふぅ。

小さく、拓巳の肩が上下する。
そのまま無言で、カバンを再び手にする。

「謹慎してます。処分決まったら連絡くれって、部長に伝えてください」

誰へともなく告げると、そのまま踵を返して。

拓巳がこっちへ戻ってくる。
再び、わたしたちの距離が縮まっていく。

彼がわたしの横を……

通り過ぎる。
彼の空気が、触れたような……気がした。

拓巳の姿が消えてしまうと、みんな夢から覚めたみたいに、再びザワザワ、業務に戻っていく。
何事もなかったみたいに。

わたしは……動けなかった。

フロアから出ていく直前、チラリと流れてきた拓巳の視線が、忘れられなくて。

……傷ついた、目をしてた。

なんであんな目……するのよ。
もしかして、誤解したの?
まさか、わたしがあの写真送ったとでも……?
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