Mysterious Lover
今日が今年最後の撮影……。
主婦向けの情報誌リリィに掲載される西部電機の記事広告で、商品はオーブンレンジだ。
集中しなくちゃ。
余計なこと、考えてる暇なんてない。
わたしはキュッと唇を引き結び、タクシーから降りた細身の女性に向かってお辞儀した。
「清水さん! おはようございます」
「どうも、沢木さん。今日はよろしくお願いいたします」
ザ・キャリアウーマンといった風情の美女がやってきた。
彼女が今回のクライアント、西部電機の広報、清水千賀子さん。
スタイリストの夏目さん、カメラマンの矢倉さんも揃い、わたしはスタッフを清水さんに引き合わせた。
無事名刺交換が終わったところで、清水さんを中へと促す。
「じゃ、こちらへどうぞ。もうテスト撮影を始めているんですが」
自然光をうまく取り入れた明るいキッチンスタジオには、すでに商品や小物類も設置済み。
企画ラフの通りだから、この段階でクレームがつくことはありえない。
そう思って案内したのだけど。
清水さんは、セッティングされたスタジオを見るなり、わたしを振り返った。
「どういうことでしょうか、これは」