Mysterious Lover

今日が今年最後の撮影……。

主婦向けの情報誌リリィに掲載される西部電機の記事広告で、商品はオーブンレンジだ。

集中しなくちゃ。

余計なこと、考えてる暇なんてない。

わたしはキュッと唇を引き結び、タクシーから降りた細身の女性に向かってお辞儀した。
「清水さん! おはようございます」

「どうも、沢木さん。今日はよろしくお願いいたします」
ザ・キャリアウーマンといった風情の美女がやってきた。
彼女が今回のクライアント、西部電機の広報、清水千賀子さん。

スタイリストの夏目さん、カメラマンの矢倉さんも揃い、わたしはスタッフを清水さんに引き合わせた。

無事名刺交換が終わったところで、清水さんを中へと促す。
「じゃ、こちらへどうぞ。もうテスト撮影を始めているんですが」

自然光をうまく取り入れた明るいキッチンスタジオには、すでに商品や小物類も設置済み。

企画ラフの通りだから、この段階でクレームがつくことはありえない。
そう思って案内したのだけど。

清水さんは、セッティングされたスタジオを見るなり、わたしを振り返った。
「どういうことでしょうか、これは」
< 236 / 302 >

この作品をシェア

pagetop