Mysterious Lover

どうしよう……こんな、こんなこと……!
わたしは、せりあがってくる涙を必死でこらえた。


◇◇◇◇
何やってんだわたしは——。

ひたすら頭を下げて、タクシーに再び乗った清水さんを送り出して。
わたしはスタジオにとぼとぼと戻った。

「あのさぁ」
機材をしまい終わった矢倉さんが、わたしを振り返った。

「は、はいっ」

怒鳴られてもしょうがない、ってわたしは体を硬くした。

「……なんかあったわけ?」

「え……?」

「今日、最初から沢木さん、なんかおかしかったから。いつもと全然違うっつーか。心ここにあらず、みたいな。ぼーっとしてたし」

あ……しっかりバレてたんだ……。
恥ずかしさのあまり、矢倉さんの顔を見ることができなかった。
「す……すみません」

「責めてるわけじゃないんだって。誰でもミスはあるからさ。でも、そろそろふっきっとかないと、ミスって連鎖するからさ」
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