Mysterious Lover

「圧力鍋を使えば、あっという間さ」

「圧力鍋って……工藤さん……女子力高すぎますよ」

「そりゃ光栄だ」
おもしろそうに笑ってグラスを傾ける工藤さんを見上げて、わたしも口元がほころんでしまう。

ここのところ食欲がなかったから、食べられるか自信がなかったけど。
そんな心配は不要だった。
工藤さんオリジナルのサラダソースは、爽やかでちょっと甘くて、アボカドにぴったりだったし。
ワインも飲みやすくておいしくて、料理にぴったりで。

「ほんっとおいしいです」
落ち込んでた気分も、少し回復したような気がする。
わたしはいつの間にか、夢中で料理を頬張っていた。

それは、なんだか時計の針が逆回転したような……不思議な感じだった。

離れてしまった気持ちは、やっぱり昔には戻れないけど。
でもわたし、工藤さんのこと好きだったなって思う。
これからも、ちゃんとこの人に認めてもらえる仕事がしたいな。

よし……がんばろう。

そんなことを考えていると。

「そういえば、奈央、引っ越しするんだって? 高城に聞いたよ。不動産屋巡りしてるって」

「あ……はい、そうなんです」
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