Mysterious Lover
4. ストーカー
「あああ〜〜……疲れた〜」

コキコキッて首を鳴らして、わたしはつぶやいた。
なんなの、この全身に漂うとてつもない疲労感っ。

京王線下高井戸駅の出口階段を下りきり、外へでて、絵の具で塗りつぶしたような夜空を見上げた。
カバンがズシッて重みを増した気がして、よいしょっと持ち直す。

たった一日なのに。
今日一日で1週間分の疲れがたまっちゃったみたい。
一日中亀井くんに振り回されて。年上の余裕なんてどこかへふっとんで。

はぁ。

一応教育係に任命されちゃったから、仕事の手順、スケジュールの組み立て方、スタッフィングのポイント等々、説明したんだけど。

何かするたびに、「奈央さん、かわいい」だの「きれいだね」だの、あの笑顔で、キラキラの瞳で、じぃっと見つめられて、言われてみてよ。
集中なんてできやしない。

あんな歯が浮くようなセリフを面と向かって言えるヤツ、リアルな世界にもいたんだ。って、感心してしまうくらい。

もはや社内中にわたしたちのことは知れ渡ってしまって、すれ違う人ごとに「おめでとう」なんて声かけられるし。
何がめでたいのよ! って叫びたくもなるわ。

快く思っていない女子も一部いるらしく……
交通費の精算に行った時の、経理課女子のあの冷たい視線!

わたしはブルッと身震いした。
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