Mysterious Lover

早く、逃げなくちゃ!
そう思うのに、足が……すくんで動いてくれないっ!

数メートルの距離をあっという間に詰めて、工藤さんはわたしを部屋の隅に追い詰めた。

背中に……タペストリーの感触があたって、動きが阻まれる。
もう……これ以上、下がれない。

工藤さんの手が……わたしに向かってのばされる。

反射的にその手をよけようとして体をひねって……
「きゃああっ」
バランスを崩したわたしは、とっさに手を伸ばしてタペストリーをつかんでいた。

体重を支えきれず、倒れ込むわたしと一緒に、それはあっさり、バサッと床に落ちた。

「いった……」
腰をさすりながら上体を起こしたわたしの視界に……タペストリーの下から現れた壁が、映った。
「え……」

下にあったもの、それは……

「ひっ……」
思わず、喉の奥からひきつれた恐怖が漏れた。
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