Mysterious Lover
「……わたしの、父親のことですか?」
ニッと工藤さんが笑った。
今まで見たこともない、不快な笑みだった。
「大切な娘が、俺の手にかかって無残に死んでいったと知ったら、あいつがどんなに自分を責めるか、どんなに苦しむか……想像するだけでぞくぞくするな」
し、死んでいく!?
この人は……わたしを……?
呼吸が……うまくできない。
空調は効いているはずなのに、汗がダラダラ流れて、なのに全身は鳥肌だってる。
熱いのか寒いのか、もう感覚がなかった。
「さて、準備にかなり時間をとられてしまったが……そろそろ感動のフィナーレといこうじゃないか」
工藤さんは、わたしに向かって再び手を伸ばした。
嫌……嫌だ嫌だ嫌だ!
冗談じゃないわよ!
こんなところで、死ぬのなんて絶対嫌!
力の入らない足を、必死で踏ん張る。
絶対、死ぬもんですか!
わたしは力を振り絞って……手にしていた唯一の武器、ワインボトルを工藤さんめがけて投げつけた。