Mysterious Lover
「思ったより軽傷で済んじまったのは誤算だったが。もっと大怪我負ってくれるとおもしろかったのになあ。でも……くくっ……お前拓巳のこと疑っただろう? ストーカーなんじゃないかって。お前に疑われて、拒絶されて、がっくりきてたあいつの顔は傑作だったな」
「どうして……そんなひどい……自分の息子なのに!」
「……息子『なのに』? それは違うな」
工藤さんの顔が歪む。笑っているのだと、すぐには気づけなかった。
「息子『だから』だ」
「は……?」
「あいつのせいで、祥子とオレの関係はおかしくなった。あいつが熱を出すたび、怪我をするたび、祥子はあいつにかかりきりで、オレになど目もくれなくなった。あいつさえ生まれなければ、祥子は今もまだオレのものだったんだ!!」
目をギラギラと光らせ、獣のように吼える目の前の男は、もう、わたしが知っている工藤さんじゃなかった。
優しい頼れる部長は、どこにもいなかった。
わたしはガクガク震える膝をなすすべなく見下ろしながら、口を動かした。
「わたしが工藤さんと出かけたことは、会社に残ってた人も見てます。こんなことしても、警察にバレますよ」
わたしは最後の望みにすがるように、入り口の方を見た。
そこから、今にも誰かが飛び込んできてくれるんじゃないか、そんな期待をして。