Mysterious Lover
◇◇◇◇
屋上へと続くドアを開けると、青空は灰色の雲にまだらに覆われていた。
分厚い雲の隙間から差し込む薄日だけでは、気温を押し上げることはできないようで。
じわっと足元から冷たさが這い登ってくる。

さすがにこの寒さの中で休憩をとろう、というツワモノはいないみたい。
見渡す限り人けはなく、しんとしてる。

足を止めた拓巳に合わせて、わたしも立ち止まる。
笑顔で……見送らなきゃ。

ううん。

ほら、まず、その前に言わなきゃいけないことが、あるでしょ?

振り返った拓巳に、わたしは「ありがとう」って笑顔を向けた。

よかった、言えた。

「え?」

「助けてくれて。お礼、まだ言ってなかったから」

「あぁ……うん」

なんだか拓巳、今日は口数が少ない。いつもはもっと饒舌なのに……。
もう、心はアメリカ、なのかも。
なんか、ちょっと寂しいけど。
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