Mysterious Lover

「オレは……本気で奈央さんに惚れてるし、自分の手で幸せにしたいって思いもある。でも、一番大事にしたいのは……守りたいのは、奈央さんの笑顔だから。オレが側にいることで、奈央さんが過去を思い出してつらい思いをするなら……オレはあなたの前から消える。もう二度と、会わない」

言葉を失ってしまうほど、ひたむきな視線のまま、拓巳が口を開いた。

「あなたが、好きだ。……好きだよ。だから」

言葉を切る。何かを断ち切るようにギュッとこぶしを握って。
そして。
言葉が、落ちる。


「さよなら、奈央さん」


空気が動く。
拓巳が、歩き出す気配がする。

わたしは……動けなかった。

わたしは……どうしたいの?
これからずっと……拓巳のいない毎日……。
それを、望んでるの?

や……やだ……
拓巳ッ……

体が、ひとりでに動き出す。
彼の……後を追って。

走り出そうと、して。
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