Mysterious Lover
お母さん……!
拓巳を引き留めて……それで、一体どうするつもり?
付き合うの? 恋人として?
わたしは、拓巳のことを、お母さんに紹介できる?
なんて説明するの?
お母さんの涙……手首からあふれる血……
病院の白い廊下……お父さんの背中……
忘れたの?
お母さんだけじゃない。わたしだって、泣いたし、苦しんだ。
なんでうちの家族がって。
そうでしょう?
わたしは、拓巳が消えたドアを見つめたまま、立ちすくんだ。
わたしたちに……未来なんてない。
永遠に。
乾いた風が、頬を冷たくたたく。
「さむ……」
わたしは両腕で、自分の体を抱きしめた。