Mysterious Lover
こらこら。
それは単なる八つ当たりでしょうが。
確かに、フロアの他部署に人影はなく、電気がついているのも制作部のみ。
うちは、ほぼフルメンバーがそろって作業中だった。
まだブツブツ言ってる翠をほっておいて、わたしはパソコンに意識を戻した。
翠には申し訳ないけど、今年のイブ、仕事があってホッとしてた。
一人で家にいたら、きっと気が滅入ってた。
いろいろ、考えてしまうから。
いろいろ、余計なことを。
「そういえばさ、あたしカメちゃんに出発いつかって聞いたんだけど」
ビクッと……自動的に、その名前に反応してしまう自分が恨めしい。
「ねえ、奈央は見送り」
「いかない」
かぶせるように、即答する。
「……そっか」
翠はそれ以上わたしには構ってこなかった。
クリスマスが終わればお正月、春が来て、夏がきて……
季節は巡っていく。ゆるやかに、でも立ち止まることなく。
大丈夫。
きっと、時間が流れれば、忘れられる。
きっと。