Mysterious Lover
亀井くんはくすっと笑うと、再びマウスに手を乗せた。
「新田自動車の資料もらいますよ……これですね」
ファイルをクリックしようとするから、わたしは慌てて「待って!」って叫んだ。
「さっき、そこを開けたら……あれ?」
画面には、いつも通り、エクセルで作ったスケジュール表や、ワードの企画案なんかが並んでる。
「え……」
どういうこと? あの写真は……どこへ行ったの?
幻覚? ううん、まさかそんな……。
ちゃんとわたし、見たもの。
スーパーの袋、両手にぶら下げて歩く、自分の写真。
でも、エクセルファイルをクリックすると、ちゃんとスケジュール表が現れて。
どこもおかしなところはないみたい。
「よかったじゃん奈央」
翠の言葉にとりあえずうなずくわたし。
なんだか狸か狐に化かされた、みたいな感じはするけど……。
「なあ、お前ウェブに来いよ。編集になんかじゃ、お前のテクニックはもったいなさすぎる!」
ウェブチームの松園さんが亀井くんのこと口説き始める。
「『編集になんか』ってなんだよ松園ぉ!」
田所がからんで、「うるさい」って一蹴され。
みんながどっと笑いに沸く。