Mysterious Lover
最初は「新人が定時あがりかよ?」ってちょっと渋い顔してた田所も、
「やっぱり欧米って、オンオフ切り替えきっちりしてんだなー見習わないとなー」
って、最近は感心しきり。
他部署の社員ともいつの間にか仲良くなっていて、あっという間に社内になじんでしまった。
ほんとに、不思議なヤツ。
「なんか俺たち、亀井の話ばっかりだな」
グラスを傾けて、工藤さんがちらっと唇の端を持ち上げた。
「え……そう、ですか?」
うそ、そんなにあいつのことばっかり話してる?
「亀井の教育係、奈央にしたのは失敗だったな」
「え?」
「気になって仕方ない」
工藤さんは少し照れくさそうにグラスを回す。
え、ってわたしは目を見開いた。
この2週間、どんなに拓巳がわたしに絡んできても、われ関せずって態度だったから、ちょっとショックだったのに。
もしかして……妬いてくれてた?
「いつのまにか、『拓巳』、なんて呼んでるし」
「あっあああのそれは、その、仕方なくというか、成り行きというか……」
「俺も、危機感もたなきゃいけないのかな」
工藤さんの手がわたしの手に重なった。