Mysterious Lover
そのままその手は引き寄せられて、工藤さんの唇へ押し当てられる。
「奈央の手、熱い」
「あ、アルコール、久しぶりなので……」
くすり、小さく微笑む工藤さんの顔が近づいた。
耳元に、ささやきが落ちる。
「よろめくなよ? あいつに」
店内に響くベースの重低音と絡み合うような、低く艶めいた、声音。
思わず、ぞくりとした。
「な、ないですよ! わたしは、わたしは……工藤さんのこと……」
「俺のこと、何?」
その先を促すように、工藤さんがわたしを見つめる。
でも。
あの……えっと……
唇が震えて……言葉がでてこない。
唇を、ぎゅっと噛んだ。
「そ……尊敬してます。あんな年下のチャラ男なんか、全然対象外ですから!」
「チャラ男か……くく」
肩を揺すって笑う工藤さんを見て、わたしはこっそり、ホッと息をついた。
よかった……ごまかせた、みたい。