Mysterious Lover
その時。
リンリンリン……
着信音!?——ギクッて、条件反射みたいに、たちまち緊張が走る。
まさか……?
でも、
それはわたしじゃなかった。
工藤さんはスーツの内ポケットからスマホを取り出して、視線でわたしに謝ると、画面をタップした。
「はい? ああ、今六本木だけど。え? ……わかった、すぐ戻る」
「……何かトラブルですか?」
工藤さんがスマホをしまいながら、肩をすくめる。
「ああ、立川製薬のデータ、印刷所に届いてないって」
「ええっ?」
「大丈夫。単なる送信ミスだろ。ちょっと戻って確認するよ。ごめんな、せっかく久しぶりのデートだったのに。この埋め合わせは必ずするから」
「大丈夫です。気にしないでください」
「送っていきたいけど……」
「平気です。まだ電車動いてますし」
「ごめんな」もう一度言って、工藤さんはわたしの頬に手を伸ばした。軽く唇を重ねてから慌ただしく出ていく彼。その背中をじっと見送る。