Mysterious Lover

その時。

リンリンリン……

着信音!?——ギクッて、条件反射みたいに、たちまち緊張が走る。

まさか……?

でも、
それはわたしじゃなかった。

工藤さんはスーツの内ポケットからスマホを取り出して、視線でわたしに謝ると、画面をタップした。

「はい? ああ、今六本木だけど。え? ……わかった、すぐ戻る」

「……何かトラブルですか?」

工藤さんがスマホをしまいながら、肩をすくめる。
「ああ、立川製薬のデータ、印刷所に届いてないって」

「ええっ?」

「大丈夫。単なる送信ミスだろ。ちょっと戻って確認するよ。ごめんな、せっかく久しぶりのデートだったのに。この埋め合わせは必ずするから」

「大丈夫です。気にしないでください」

「送っていきたいけど……」

「平気です。まだ電車動いてますし」

「ごめんな」もう一度言って、工藤さんはわたしの頬に手を伸ばした。軽く唇を重ねてから慌ただしく出ていく彼。その背中をじっと見送る。
< 47 / 302 >

この作品をシェア

pagetop