Mysterious Lover
自殺未遂なんて言葉、知らなった。
ただ、まだ小さかったわたしにも、お母さんにとてもつらいことが起こって、それで逃げ出したくなってしまったのだということは、理解できた。
その「つらいこと」というのが、お父さんの浮気だったことを知ったのは、2人が離婚した後だった。
その後、お父さんはどうやらその浮気相手と再婚したらしい。
人は変わる。
人は嘘をつく。
人は裏切る。
永遠の愛なんて、わたしは信じない。
◇◇◇◇
「おはようございます、奈央さん」
エレベーターがようやく27階について、ホッとエレベーターから降りたわたしを、拓巳が待ち受けていた。
「おはよ」
視線を避けながらさらりと言って、そのまま歩き出す。
「奈央さん、話、あるんですけど」
「後にしてくれる? 朝イチでチェックしたいことあるの」
どうせ、昨夜のこと言い訳するつもりでしょ。
白けた気分で、足を止めずにフロアへ向かった。