Mysterious Lover

自殺未遂なんて言葉、知らなった。

ただ、まだ小さかったわたしにも、お母さんにとてもつらいことが起こって、それで逃げ出したくなってしまったのだということは、理解できた。

その「つらいこと」というのが、お父さんの浮気だったことを知ったのは、2人が離婚した後だった。

その後、お父さんはどうやらその浮気相手と再婚したらしい。


人は変わる。
人は嘘をつく。
人は裏切る。

永遠の愛なんて、わたしは信じない。



◇◇◇◇
「おはようございます、奈央さん」

エレベーターがようやく27階について、ホッとエレベーターから降りたわたしを、拓巳が待ち受けていた。

「おはよ」

視線を避けながらさらりと言って、そのまま歩き出す。

「奈央さん、話、あるんですけど」

「後にしてくれる? 朝イチでチェックしたいことあるの」
どうせ、昨夜のこと言い訳するつもりでしょ。
白けた気分で、足を止めずにフロアへ向かった。
< 55 / 302 >

この作品をシェア

pagetop