Mysterious Lover
きっと、こんな笑顔、誰にだって見せるのよね。
同僚にも、ホストクラブのお客にも、誰にだって……。
胸の奥がざわつくのは、嫉妬なんかじゃない。
絶対に違う。
わたしは自分に、言い聞かせた。
「沢木」
ふいに呼び止められて、わたしと拓巳は同時に振りむいた。
「工藤さんっ」
見られていたわけじゃないのに、なんだか居心地が悪くて、つい目をそらしちゃった。
「ちょっと今いいか?」
「はっはい」
拓巳の視線にドギマギしながら、彼から離れる。
わたしの背に手をあてて促しながら、工藤さんはちらりと拓巳を振り返った。
「……亀井、ネクタイ直しとけ」
その声は、今まで聞いたことないくらい強張っていた。