Mysterious Lover

「この企画は、もうこのラフで、このスタイリングでクライアントのOKがとれてるんです。今から変更なんてできません。今日は中里さんもいらっしゃってませんし、勝手に変えるわけにはいきません」

「奈央さん、でも絶対変えた方がいいって」

わたしは首を振る。
「商品のことを一番わかってるのはクライアントよ。そのクライアントがOKだしたものを、わたしたちが勝手に変えたらダメ。撮り直しか、最悪もう二度と仕事がもらえなくなる」

「でも……」
口を開いた拓巳を、「確かにねえ」って高林さんの声が遮った。
「ここは沢ちゃんが正しいよ」
宮本さんも頷いた。
「そうだね。今回は記事広だもんね。あくまでクライアントありきの『広告』で、記事じゃない」

「そんな……」
悔しそうに肩を落とした拓巳に、わたしは思わず微笑んでしまいながら、「だから」って続けた。

「わたしに、クライアントと交渉する時間をください。変更点を伝えて、了解をもらいますから」

ハッと拓巳が目を見張る。
「それって……?」

わたしは拓巳に頷いた。
「OKでたらすぐ始めるから、拓巳は高林さんのお手伝い。セット組み換えの準備して」

「了解!」

高林さんと宮本さんも、笑って顔を見合わせた。
「やりますかー」
「やりましょう」

それから再び、スタジオが活気づいた。
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