Mysterious Lover

——大丈夫ですか?
——救急車呼びましょうか?


周りの声が聞こえてきて、ゆっくり目を開ける。
あちこち痛いけど……大丈夫。動ける。動かせる。
骨が折れたり……とかもない、みたい。

体を起こしてあたりを見回す。
拓巳のおかげで、下まで転げ落ちずに、踊り場で止まることができたみたい。


「っつ……!」

拓巳のうめき声が聞こえて、わたしは飛び起きた。


拓巳、わたしを丸ごと抱えて落ちたんだ!

「拓巳! 拓巳!! 大丈夫!?」

「ん……」
その目が開いて、ふわっと笑む。

「奈央さんは? 大丈夫?」

「うん……うん、よかった……」
体から力が抜けていく……。よかった……ほんとに。

わたしたちの無事を確認すると、取り囲んでいた人垣が一気に崩れていく。
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