Mysterious Lover

「奈央さん、立てる?」

拓巳につかまって立ちあがると、OLらしき女性が近づいてきた。

「これ、落ちましたよ」
差し出された自分のスマホを、「ありがとうございます」って、震える手で受け取る。

知らない女性だ。
この人じゃ……ないよね?

周囲を見渡した。

サラリーマン、高校生、親子連れ……
何事もなかったように足早に通り過ぎる、いくつもの靴。
もう誰も、わたしたちに注意を払っていなかった。

でも。

この中の誰かに。
わたし……突き落とされた。
間違いない。だってまだ、あの強い感触が背中に残ってるもの。

……あのストーカーが……そばに、いた?

ぞくっ——
体が、震えた。
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