Mysterious Lover

◇◇◇◇
倒れた時膝を擦りむいていたわたしは、拓巳に無理やり引っ張られるようにして駅の事務室へ。
そこで救急箱を貸してもらって消毒して、一応絆創膏だけ貼っておく。

ストッキングを脱いだ生足に絆創膏って……
あぁ、ものすっごくマヌケな格好。
情けなさすぎ……なんて落ち込みながら、事務室を後にする。

並んで歩きながら、わたしは拓巳に「ほんとにごめんね」って謝った。

「なんで謝るんですか?」
ムッとした顔がわたしを見る。

「だって……拓巳まで巻き込んで。迷惑かけちゃって」

そういうと、はあってため息。
そして拓巳の足が止まった。

「……拓巳?」

「いい加減理解してくださいね。オレが奈央さんのこと本気だって」
呆れたような声が降る。

「好きな人のために何かできるって、めちゃくちゃうれしいんですよ?」

「う」と言葉を失ってうつむいたわたしの顎に、長い指がからんできて、上向かされた。

「ああああの、拓巳……?」
み、みんな見てるんですが……。

「いつでも、どんなことでもいいから。どんどん頼ってください」
笑みを消した拓巳のまなざしから、目がそらせない。
< 90 / 302 >

この作品をシェア

pagetop