Mysterious Lover
11. trouble 3
工藤さんとわたしは、一言も口をきかなかった。
タクシーに乗り込んでも、わたしの部屋に入っても。
どうしよう……
たぶん、工藤さんに気づかれた。
どっちを選ぶかって拓巳に迫られて……一瞬迷った、わたしの気持ちを。
怖くて、工藤さんの顔を見ることができなくて。
キッチンに逃げるように駆け込んで、「コーヒーでいいですか」ってガタガタ、カップを用意する。
何か、沈黙を埋める口実がほしかった。
「何もいらない。奈央……こっちにおいで」
ソファに座った工藤さんが、隣を指してる。
でもわたしは……動けなかった。
今、工藤さんのこと、真正面から見る勇気がない。
「奈央?」
工藤さんが焦れて、立ち上がる。