こい
3 よみや



私が春之に会ったのは、彼の結婚式から2年ほど経ってからのことだった。

それまでは盆正月を始め、ことあるごとに本家で顔を合わせていたけれど、結婚した春之は紗英さんの実家に行くことも多く、私とはすれ違いになっていたのだ。

子どもたちも大きくなり、年老いた大人はお酒が弱くなったり病気をしたりと、昔のように頻繁に宴会が開かれなくなっていたことも理由のひとつだ。


その年のお盆は東京に住んでいる叔父が数年ぶりに帰省するということもあり、久しぶりにみんな集まっての食事会が開かれたのだ。


「こんにちは。ご無沙汰いたしております」

玄関できっちり頭を下げて出迎える紗英さんに、心の準備ができていなかった私は挨拶すら返すことができなかった。

サラサラの長い髪をひとつに束ね、モノトーンのストライプで裾に濃いピンクのお花がついたエプロンをしている。
ただ無地や地味な色合いの服を着て背伸びをしている自分が情けなくなった。


「あらあら!こちらこそお久しぶりです。ご実家の方はいいの?」

「はい。うちの方は午前中に済ませてきましたから。あ、スリッパ足りませんか?」

「いいの、いいの。いつもスリッパ使ってないから」

私が言葉を発しなくても、大人同士の付き合いに影響はない。

「あいちゃん、こんにちは。ちょっと見ない間に大きくなったね」

「・・・こんにちは」

さすがに名指しで話しかけられたら返事せざるを得ない。

2年も経っているのだから大きくもなる。
私にとってあの衝撃的な結婚式はずいぶん遠く感じられるけど、紗英さんにとっては『ちょっと』らしい。
あまりの感覚の違いに、指摘することも億劫だった。


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