こい
私はどこか冷静な子どもで、恋愛感情には疎いくせに自分が子どもであることをよくわかっていた。
大人に何か聞いたとき「ああ、この人は私が子どもだと思って誤魔化しているなあ。だけどそれを伝えるにはまだ言葉を知らないなあ」とぼんやり思う程度には。
私は春之が好きだと思った。
他の誰とも春之だけは違って特別なんだと。
だけど、この気持ちは私が大人になるに従って変わっていくかもしれないと思った。
それと同時に、こんなに強い気持ちなのだからずっと変わらず本物なのだ、とも思っていた。
どちらが正しいのか、それを確かめる術なんて当然持っていなかった。
いつか大人になればわかるだろうと思っていた。
でも、大人だって、いつになったって、そんなことを証明できないのだ。
そして「本物」とは何なのか、何年も経って私は別の人から教わることになる。