こい
お参りが済むと、春之は当然のようにまた私の手を引いた。
「何か欲しいものはある?」
小さな神社の小さな境内。
ひしめき合うように屋台は並んでいるけれど、それでもたかが知れている。
「━━━━━イチゴ飴」
春之と春之の手にしか意識がいっていなかった私は、屋台に何があるのか見ていなかった。
だけど何もいらないと答えたらすぐ帰ってしまいそうだったから、思いつくままにそう言った。
春之は迷いなくひとつの店へと向かった。
本殿に向かうときに見かけて、売っている場所を知っていたのだろう。
「いらっしゃいませ~」
おじさんともお兄さんとも言える人が、こちらを見もしないでそう言った。
屋台の前には黄金色の飴がからまってつやつやとしたイチゴ飴とリンゴ飴がずらりと並んでいる。
春之がお店の人に声を掛けようとするのを、私は手を強く引いて阻止した。
グイグイと引っ張って店から離れ、大きな杉の木の根本まで春之を連れていく。
黙って引っ張られてきた春之だけど、当然不思議そうな表情をしていた。
「あれじゃない」
イチゴ飴はまぎれもなく売っているものだったけれど、それを買ってしまえばやはり帰らなければならなくなる。
私は必死で、なんとかこの時間を引き延ばす方法を考えた。
「青いイチゴ飴があったの。それがいいの」