こい
その後あまりお祭りの屋台に行くことはなかったけれど、今に至るまで青いイチゴ飴など見たことない。
あればいいのに、と思う。
少し透き通った青い飴の中に真っ赤なイチゴが閉じこめられていたら、とてもきれいだと思うのだ。
口から出任せに言ったのに、そんな自分の想像が思いの外気に入って、本当に見たことがあるような気持ちになってきた。
「青いイチゴ飴?」
春之は首をめぐらして青いイチゴ飴を探している。
「青いイチゴ飴が欲しい。さっき見たの」
子どもは子どもなりに計算する。
自分の思う通りにするために嘘だってつく。
自分が子どもだと自覚していて、それを利用することだって十分にできるのだ。
私がありもしない物をねだっても、春之は怒ったりしないとわかっていた。
困った顔はするかもしれないけれど。
「じゃあ、一軒ずつ探してみようか」
春之は青いイチゴ飴なんてないとわかっていただろうか。
それとも本当にどこかにあるかもしれないと思っただろうか。
とにかく、私たちは屋台を一軒一軒見て回った。
青いイチゴ飴は当然なかった。
すべて見終わると、また戻って探した。
たくさんいた人の姿がまばらになるまで、十数件しかない屋台を何度も何度も。
「もういい。帰ろう」
店じまいをするところが出始めても、春之は「帰ろう」とは言わなかった。
帰りたくなくてあんな嘘を言ったのに、とうとう私の方が折れてしまった。
もう迷子になるほど人はいないのに、結局本家に戻るまで春之はずっと手をつないでいてくれた。