こい



私の部屋は南向きで狭い庭に面している。
住宅街で高いビルもないため日当たりがよく、夜には月がよく見えた。
特に満月に近いときにはまぶしいくらいに光が入って、月の陽だまりができるほど。

その光の中で、私はひたすら月に祈った。
バカみたいなことだけど、私に他にできることなんか何もなかったから。

何を願えばいいのかわからないから、あの神社と同じようにひたすらに「春之が好きです」と祈った。
どうしようもない気持ちの持っていき場をそこに求めたのだ。

そうしていればいつか気持ちが消えるか、答えが出るような気がして。


私の気持ちは消えることなく、その習慣は何年も続いた。

けれど、祈る対象が良くなかったのか、そもそも祈りになど何の効果もないのか、月が私の想いに応えてくれることはなかった。



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