こい

５ からつゆ

「出会う」というのは、どこからを指すのだろう？
すれ違っただけの人を、一方的に知っている人を「出会った」とは言わないはずだ。


彼を初めて見たのは、きっと高校の入学式なんだと思う。
一年生のとき同じクラスだったからだ。

だけど会話をした記憶は一切ない。
本当に話したことがないかもしれないし、ただ忘れているだけかもしれない。
どっちにしろとにかく覚えていない。


二年生は別のクラスだった。
私のクラスにいなかったのは知っているけど、彼が何組だったのかは知らない。

だからもし「出会う」ということが「お互いを認識して人間関係を結ぶ」ことであるならば、私が若村君と出会ったのは、三年生の４月ということになる。

出席番号順に男子３人と女子３人で班になって掃除をすることになったのだ。
若村君とはその班が一緒になった。

掃除といっても床を掃いてモップ掛けし、机やテーブルを拭く程度のもの。
ほんの１５分ほどで終わる。
中にはそれでもサボる人はいるけれど、高校生にもなればみんなそこそこ大人だ。
怒られたり他の班員から白い目で見られるよりは、手を抜いてパパッと終わらせた方がむしろ労力は少ないと知っている。


「あー、終わった。私部活だから帰るね」

原田さんは使ったモップをしまうこともせず、さっさと視聴覚室を出ていった。
一応先生のチェックが終わるまでは残っていなければならないのだけど、うるさい先生じゃないから文句は言われないだろう。

私は投げ出された雑巾をバケツに入れて水場へと運ぶ。
ささっと洗って戻るとちょうど掃除監督の大友先生が来たところだった。

入り口から顔だけ覗かせている。

「あれ？１人足りなくない？」

「原田さんは急いで部活に行かなきゃいけなかったみたいで・・・」

掃除は雑だけど悪い子じゃない。
サボったわけでもないのだからこのくらいのフォローはしてもいいと思う。

「ああ、そうなんだ。じゃあ、終わっていいよ。あ、ゴミだけは捨ててね」

そう言って大友先生は帰っていった。