こい


ゴミは収集場所まで持っていかなければいけないからちょっと面倒臭い。
しかもその収集場所はこの視聴覚室からは最も遠い位置にあるのだ。

私がひそかなため息をつくより早く、若村君が動いた。
ゴミ袋の口を結んでひっぱり上げる。
私は慌てて駆け寄って、ゴミ箱の方を押さえた。

「ありがとう」

表情を変えないままポツリとそうつぶやくと、若村君は手慣れた様子で新しいゴミ袋をかけた。

「俺、これ出してから行くからみんな帰っていいよ」

若村君がスタスタと先に出ていくので、

「やったー。帰ろう、帰ろう」

と、他の班員も視聴覚室を出た。

私もそれにつづきながら、ふと、今まで自分がゴミを捨てたことがないと気づいた。
いつもすでに捨てられていて、ゴミ袋が掃除用具入れの上に置いてあることさえさっき知ったばかり。


どうでもいいことなのに、なぜかそのことが心に引っかかった。



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