こい
ゴミはいつも若村君が捨てていた。
大抵は掃除の最後に、私がバケツを片づけている間に。
いつの間にかいなくなっていつの間にか戻っているから、ずっと気づかなかった。
若村君は要領がいいのか悪いのか、人より多く働いている。
それでも時間内にはちゃんと終わらせるし、作業も丁寧だ。
女である私が恥ずかしくなるくらいにきちんとしている。
ただ、人柄からくる印象のせいなのか地味で目立たない。
だから彼の働きぶりもみんなの目には留まらないのだ。
もったいないと思う。
「若村君!」
視聴覚室を出た彼を呼び止めると、ゴミ袋を持ったままちょっと振り返って待っていてくれる。
「いつもごめんね。毎日ゴミ捨てって嫌にならない?」
「なんで?」
「え?だって収集場所遠いじゃない」
「ああ、そうだね」
どうやら彼はそのことに言われて初めて気づいたらしい。
「交代でやるように提案してみようか?」
「別にいいよ」
「いいの?若村君って他の人より動いてるのに」
やっぱり彼は深く考えたことがなかったようで、少しの間首をかしげていた。
「・・・他の人が動かないところをカバーした方が効率よく終わるかなって、思ってるだけだから」
確かに率先して掃除をしているようには見えない。
それでも一番働いているのは間違いなく若村君なのだ。
「それだとみんなが嫌がってやらない仕事ばっかり若村君がやることになるよ?」
実際ゴミ捨てや、手を濡らさなければならない雑巾がけは若村君ばかりやっている。
「そんな大袈裟なものじゃないよ。たかが学校の掃除じゃない」
たかが学校の掃除だ。
だけどそう割り切ってできる人なんてほとんどいない。
少しでも楽をしたいのが人間だと思うから。
「でも、ありがとう。さっさと置いてくるから」
にっこりと笑って若村君は背中を向けた。
あんまり晴れやかに笑うから少しびっくりしてしまった。
若村君だって笑うんだ。
当たり前なのにそんなことにも考えが及ばないほど、私は彼を意識したことがなかった。