こい



気になって若村君を観察した。
それはもうカブトムシを観察するのと同じように。
彼がどういう動きをするのか、じーっと見てみたのだ。

驚くべきことに、若村君は休み時間も勉強している。
受験生なのだから当然なのだけど、まだ夏休み前でそこまで追い込まれた空気はない。
それでも若村君はどんなささいな隙でもぼんやりしたりせず、勉強したり、何か用事を済ませたり、時間をとても上手に使っている。

もちろん友達と話したり遊んでいるときもある。
意外、というととても失礼なのだけど、部活は華やかなバスケットボール部だったし友人も多い。

だけど、ふっと時間が空くとさっとノートを取り出して勉強を始めるのだ。
私のように他人を観察している時間なんて当然ない。


「若村君、いつも何の勉強してるの?」

教科書を読む程度ではなく、しっかりノートに書いているので何か決まったものでも勉強しているのかと思って聞いてみた。

「宿題」

私は〈宿題〉って家でやるものだという固定観念があった。
休み時間に早速やるなんて考えたこともない。

「家でしないの?」

「塾があるし、家では受験勉強したいから」

学校の中だけでなく、常に時間を有効に使っている人なのだ。

「すごいね」

「何が?」

「時間を無駄にしてなくて。若村君の生活に比べたら、私はほとんどの時間を無駄にしている気がする」

はは!っと、若村君はあの晴れやかな笑顔を見せた。

「いつも楽しそうにしてるなって思ってたよ」

楽しそうになんてしているだろうか?
自分では自分のことがわからない。
だけどそうならいいなって思う。
そう言ってもらえると嬉しい。

「ありがとう」

私がそう答えると、若村君はやっぱりあの顔でにっこりと笑った。
最近その笑顔をよく見るようになった気がする。
結構笑う人なのかもしれない。





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