こい
真っ直ぐに視聴覚室へ向かう背中に「ちょっと待って!」と呼びかけると、若村君は振り返って笑顔になった。
「なんだ、藤嶋さんか」
追いついた私は怪訝な顔を彼に向ける。
「まさか掃除しに行くつもりじゃないよね?」
「そう思ってるけど」
「今日は先生がいないから掃除は休みだよ?」
昨日チェックを終えた大友先生は、
「明日は会議でチェックできないから、掃除はお休みにします」
と言い残したのだ。
当然他の班員は来ていない。
私も掃除なんてするつもりはなかった。
だけど迷いなく教室を出る若村君の後ろ姿に、なんだか嫌な予感がして追いかけてきたのだ。
「そうだけど、今日俺たちのクラスも視聴覚室使ったから。簡単に掃いてゴミを捨てるくらいはしておいた方がいいと思って」
「真面目すぎる」
「その方が明日楽かなって思うだけ。それに真面目って悪いこと?」
「悪くはないけど・・・」
むしろいいとは思う。
でも世の中もう少し不真面目で適当な方が好まれるのも事実。
真面目すぎるのは窮屈だ。
・・・だけど、若村君ってその窮屈さがない。
何をするにもこれみよがしじゃないし、多分他人に同じだけの真面目さは求めていないんだとわかるから。
「私もやる」
若村君がちょっと驚いたように目を大きくした。
「今日、掃除休みだよ?」
どの口がそんなことを言うのか。
「その方が明日楽なんでしょう?」