こい



一応梅雨で天気予報も雨だったから、いつもは自転車通学のところを今朝はバスできた。
だけど今の胸も頭もいっぱいの状態で人に揉まれたくない。


予報を信じて持ってきたもののただの荷物になってしまった傘をブラブラさせながら歩く。
家までは徒歩で1時間弱。
それでも時間が足りないくらいに感じていた。

見上げる空に浮かんだ雲はやはりさっき見たものとは違う。
ゆっくりと流れる景色も目に入らない。


若村君は一番気になる存在だった。
真面目すぎる行動も、時間を無駄にしないところも変わっているけど面白い。
クラスで目立つ方でなくても、バスケ部らしくスラッと背は高いし姿勢もいいから存在感が薄いわけでもない。
勉強もできる。
友達も多い。
これといったマイナスポイントは何もない人なのだ。

むしろ、なぜ私に目を留めたのか不思議なほど。


若村君のことは、好きだと思う。

他の人より気になって、好きだと思って、特別断る理由もなければ〈恋〉なのだろうか。

私にはもう〈恋〉が何なのかわからない。


『ありがとう。俺もあいちゃんが好きだよ』


春之と若村君を比べようにも、あまりに違いすぎてよくわからない。

だけど若村君を断って春之を選ぶとか、そういう状態じゃない。
春之は選べない。
昔からいつだってずっと、春之は選べない。

もし春之以外の誰かと付き合うなら、それなら私は若村君がいい。
付き合ったらもっともっと若村君を好きになれると思う。
もっともっと若村君を好きになりたい。


私は春之以外の誰かに恋をしたい。
もうここから出たい。
出ないといけない。




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