こい
6 あめ



よく見る悪夢のひとつに「英語の予習を忘れる」というのがある。

英語の授業が始まるのに、私は真っ白な教科書を震えながら持っているのだ。
単語の意味さえわかれば何とか誤魔化せるけど、ひとつとして調べていない。

頭からやっていたのでは到底間に合わないので、他の人が当たっている間に少し先の英文を訳そうと必死で辞書をめくる。
そういう夢だ。


何年経っても私を追いつめるほど、高校時代は予習に追われる日々だった。
テスト前ともなれば詰め込んだ単語や公式を頭からこぼさないようにそっと自転車に乗る、というイメージ。

だから成績優秀な若村君と親しくなることは、申し訳ない言い方だがメリットが大きかった。


「文章が長くなったからって動揺しないで、順番に頭から訳していって」

「頭から・・・えーっと『私は、考える、that以下のように』えーっと」

「そうそう。それで ” と ” の間は具体的な説明だから後回しにして大丈夫。『私はthat以下のように考える』でthatの中身は?」

中学校まではなんてことなかった英語。
あのペースでゆっくり進めば私でもなんとかなったと思う。
けれどそのスピードは私の予想をはるかに超えていた。

一年生の最初の授業、多少多めに、と思って5ページ予習していって授業は20ページ進んだ。
そこからして、もうつまずいていたのだ。

毎日翌日の授業を乗り切ることに必死だったから、こんな基本に立ち返る時間はなかった。


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