こい
8 はれ
午後から晴れるなんて予報が疑わしいほど重く雲が垂れ込めた朝。
沈む気持ちに拍車をかけられて、私は卒業式に臨むことになった。
『今日は一緒に帰ろう』
二次試験が終わってから何度誘っても、若村君は会ってくれなかった。
多分、私の言いたいことなんかお見通しなんだと思う。
それなのに今朝突然そんなメールが届いた。
前置きも何もない、たった一文。
だからこそ有無を言わさない凄みを感じた。
『わかった』
教室は非日常感でいつもよりむしろ騒がしく、涙なんてない。
試験は終わったから予習も宿題ももうない。
だからさすがの若村君も時間を惜しんで勉強するようなことはなく、友達と楽しげに話をしている。
私も友達同士の会話に参加しつつも、そんな若村君を離れた席から見ていた。
すると、その視線に気づいたのか若村君も私を見た。
私が見ていたことをわかっていたように、目が合っても驚いた様子もないまま逸らさずにじっと。
こんな時、若村君はいつもにっこりと微笑んでくれた。
だから私も自然と笑顔を返せた。
若村君が笑わなくなって、どのくらい経っただろう。
担任が教室に入ってきた音で、視線は同時に離れた。