こい
形式的に過ぎていく卒業式を、私は無感動なままやり過ごした。
今時まだ歌うのか、という『仰げば尊し』。
受験は終わっていないので、式典の練習に時間を割いたりしないのだ。
私もそれで全然構わない。
高校時代にはたくさんの思い出がある。
大切に思っている。
でもそれは友達だったり、自分の努力だったり、若村君だったりで、学校そのものに未練はない。
国立の合格発表はまだなので、多くの生徒は不安を抱えたままだ。
その状態で卒業と言われても感じ入れるわけもなく、誰一人泣いていなかった。
いつもより長い担任の話とともに最後のHRが終わった。
カラッとしているようでも、みんなどこかしら名残惜しいのだろう。
写真を撮り合ったり、教室を移動して歩いたり、いつもと違ってなかなか帰ろうとしない。
私も友達と春休みの約束を話し合っていたけれど、実は気もそぞろだった。
ふと、友達の一人が目線だけで私の後ろを示した。
そこには、周りに人がいることなど気にする様子もない若村君が黙って私を待っていた。
「帰ろうか」
「うん」
友達に見送られて若村君と一緒に校舎を出ると、信じていなかった天気予報どおり、すっきりと晴れ渡っていた。