こい
二人黙って歩く。
まだ芽も見えない桜並木を、古い個人経営のコンビニの前を、人気のあるたい焼き屋さんの前を、去年新しく開通した橋の上を、時を止めたように変わらない住宅街を。
ずっとずっと黙って歩く。
こうして若村君と帰るのは雨や雪の日ばかりだった。
梅雨の時期あまり降らなかった雨。
夏から秋にかけて取り返すように多かった気がする。
いつも傘の分だけ距離があったけど、今日はその分距離が近い。
物理的な距離ならばこんなにも近いのに。
「どんな人なの?藤嶋さんの好きな人は」
言われた言葉を理解するのに精一杯で足を止めてしまった私を、若村君は待つことをせず歩いていく。
どう切り出したら傷つけずに済むだろうなんて甘い考えを、見透かしたような強い声だった。
誰かを傷つけるのは辛いし怖い。
そのことから私は逃げているのに、若村君はやっぱり真正面から向き合ってきた。
この人に対して計算や誤魔化しなんて許されない。
「・・・親戚の、ずっとずっと年上の人。物心ついたときにはもう好きだったの」
小走りで追いついて、そう答えた。
「あ、やっぱりいたんだね。好きな人」
血の気が引いた。
言ってはいけないことを言ってしまった。