こい

「いいんだ。なんとなくわかってたから」

久しぶりに若村君のやさしい笑顔を見た。

「ごめんなさい」

「謝罪は受け付けない。そんな情けない恋はしてないから」

責められるよりずっと心に痛い。

「ちゃんと気持ちは伝えたの?」

「一度言ったけど、相手にしてもらえなかった。結婚してたから」

「結婚『してた』?」

「最近、離婚したって聞いた」

「ああ、なるほど。それで様子がおかしかったんだね」

私の態度が変わってしまったことは、自覚があった。
若村君が気づいているとも知っていた。
今日ここではっきり終わることもお互いにわかっていた。

「もっと早く別れてあげるべきだったんだろうけど、これくらいのワガママはいいよね?」

私は強く首を横に振った。

「そんなのワガママじゃない」

ワガママは全部私の方だから。

「その人のどこがいいの?」

春之のどこが好き?
そんなの考えたことがなかった。
春之は春之で、ただそれだけで、私の心全部を持っていくから。

「━━━━━わからない」

「そうだよね。つまらないこと聞いちゃった」

黙って俯いたら、遠くで車の走る音と鳥の鳴き声が聞こえた。
妙にのどかな空気なのに私の心はちっともなごまない。
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