こい

「いつか変わると思ってた。大きくなったら、いつか別に好きな人ができるだろうって。だけど変わらなかったから、やっぱりこの気持ちは本物だったんだって思ったの」

変わらなかったから本物になったのか、本物だから変わらなかったのか。
確かめる方法なんてない。

「変わったとしても本物はあるよ」

揺るぎない確信を持って、若村君はそう言った。
若村君はいつも私の考えの及ばない答えを示してくる。

「藤嶋さんは俺のことが好きだったでしょう?」

「うん」

迷いなく私はうなずいた。
若村君のことは今だってとても好きだ。
ずっと春之を想っているのに不思議だけど、この気持ちだって嘘じゃない。

「俺は藤嶋さんのことを忘れないけど、それでもいつかこの気持ちは変わっていくと思う。他の人を好きになれると思う。だけど、だからって藤嶋さんを好きだった気持ちは本物だよ。他に好きな人がいたって、変わってしまったって、俺と藤嶋さんの恋も本物なんだ」

変わらないものだけを本物だと言うのなら、若村君を否定してしまうのだ。
若村君が私に向けてくれた気持ちは、今だって真っ直ぐなのに。

「変わらなくても、それは単なる執着かもしれないし。あ、ごめん。これはただの負け惜しみ」

ちょっと恥ずかしそうに笑う若村君の笑顔はとても晴れやかだった。
晴れやかなものは、やっぱり悲しい。
< 65 / 92 >

この作品をシェア

pagetop